2013年06月29日

立石の貧しい職人一家を描いた、映画『綴方教室』と『かあちゃん』

『綴方教室』は、昭和初期のベストセラー。立石1丁目の葛飾区立本田小学校(当時・本田第一小学校)に通う生徒、豊田正子が書いた作文集です。この本には、立石(正子さんの家は四ツ木寄り)に生きる貧しいブリキ職人とその家族の日常が綴られています。






 

『綴方教室』が、中央公論から刊行されたのは昭和12年。よほどのヒットだったのでしょう。翌年には、東宝から同名の映画が封切られました。主演の正子役は、当時13歳だった高峰秀子。母親に清川虹子、父親に徳川夢声、先生は滝沢修と贅沢なキャスティング。監督は山本嘉次郎で、製作主任には黒澤明の名前が見られます。

高峰秀子.jpg

 豊田正子は、『綴方教室』の他にも多数の著作を残しました。『粘土のお面』は、立石以前、墨田区に暮らしていた頃の話。この『粘土のお面』を原作にした映画が、『かあちゃん』(昭和36年/監督・中川信夫/新東宝)です。
 正子役に二木てるみ、母親に望月優子、父親に伊藤雄之助、他に田崎潤、宇津井健、丹波哲郎。(なお、『綴方教室』は、テレビドラマにもなっています。昭和36年、正子役=ジュディ・オング。ジュディ・オング??? 立石のブリキ職人の娘が、『♪魅せられて〜』エーゲ海って、それはないでしょうーー。)

清川虹子 徳川夢声.JPG 綴方/滝沢修.jpg

『綴方教室』『かあちゃん』、ふたつの映画を見較べて、どちらかというと、私は『かあちゃん』の方が好きです。
 ひと口に貧乏といっても、4つのタイプがあるように思います。
1) 窮状にうちひしがれる石川啄木型
2) 貧困に社会の矛盾を見る告発型
3) 貧しくともけなげに生きる「若い根っこの会」型
4) 開き直ちゃって貧乏と共生する貧乏自慢型

『綴方教室』は3型、『かあちゃん』は4型。その点、『綴方教室』の方が原作に近い世界を表現しています。一方、『かあちゃん』は、望月優子伊藤雄之助が貧乏をいっそ楽しんでいる、落語の長屋物にも似た雰囲気の映画です。
 たとえば、望月優子は、借金をした帰りに今川焼を買ってしまう。お金が入ると、さっそく無駄な物に費やす計画性のなさ。懲りません、学習能力ゼロ。が、この辺りに、気の良さが滲み出ていて良いのです。

綴方/望月優子.JPG

 ところで、映画『綴方教室』が封切りされた昭和初期当時、地元はどう反応したのでしょう?
 立石出身の古書業者、石尾光之祐の『無邪気な季節』(自主出版)には、こんな文章が書かれています。
「先年隣まちの渋江の貧民窟……が評判になった。小学生の綴方を編集した『綴方教室』が発表されて、映画化もされた。……はじめのうちは、身内の自慢をするように少年少女の家の近所とか、おなじ小学校の先輩だとか喋っていた連中は、映画を観に押しかけもしたが、ついぞそんな話を忘れてしまったそぶりになってきた。
 ……
 自分たちとあまり変わらない貧乏に、自分たちも貧乏だと認識するのは愉快ではない。渋江に対してわづかな優越感があっても、そのわづかな紙一枚の差がやはり紙一枚の差であるにすぎないからだろう。」
*(注1)渋江=現在の東立石2〜3丁目、東四つ木1〜4丁目、四つ木1〜3丁目。
*(注2)映画『綴方教室』『かあちゃん』ともに、現在DVDは発売されていません。



 


posted by 柳田由紀子 at 08:53| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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